POSデータから先の、現場視点を交えたオーダーメイドの提案

リテール分析シェア分析を行い、PI値などPOSデータを基にした提案は有効です。
ただ、POSデータからは現状の販売実績はみえますが、どんな陳列状況(棚割という意味ではなくフェイスアップや欠品対策が徹底されているかなど)になっているかは分からず、本来在庫があれば売れたであろうものなどの現実の販売データは実は分からないということを想像すべきです。

そのために、提案の際には、店舗をまわることが非常に大切です。
バイヤーとの交渉において、ハードな価格交渉を持ちかけられたとしても、「現場で安易な値下げを行っていないか、販売方法に改善の余地がないか」確認したうえで交渉に臨むと、売上原価を下げるため「納品価格を落とす」以外の方法が提案できるかもしれません。

そのためには、店舗をまわり状況を確認することは、暇を見つけていくのではなく規則的に行うととても有効です。
ベストは土日です。土日が販売量が最も多く、売上が高い日のオペレーションの現実がみえるためです。
商談の際に決定した棚割、売価、フェイシング数、品質など重要な項目が問題なく実行されているか確認しましょう。

そのうえで、数値データ(結果)を検証しプロセスや提案に活かすと、現実をふまえた課題解決ができ顧客満足→顧客の成功が実現に近づきます。

量販店の収益構造

量販店における売上高の要素と、会計の観点から把握すると理解がしやすいです。

まずは、リンクの内容を確認してください。
PL/BSの仕組み
リテール分析について

量販店のPLを分解すると、以下のように説明できます。
・売上高 - 商品経費(売上原価 + ロス・売価変更差額)= 粗利益高(営業利益 + 人件費 + その他経費)
・営業利益 =粗利益高 - 店舗運営に係わる経費(人件費 + その他経費)

ここでのポイントは、
・すべての店舗運営に係わる経費は、粗利益高から差し引かれること。つまり、この経費が少なくなれば営業利益が増える。
・粗利益高を多くするには、ロスと値下げによる売価変更と、売上原価を減少させること。
また、SM(スーパー)においては、営業利益率3%以上であればうまく経営できています。
売上原価の減少とは、販売価格の交渉時に価格を落とすということだけでなく「初めに設定した販売価格で商品を売り切る」「ロスが出ないように販売方法を工夫する」ことで、実際の売上原価を抑えることができます。現場で安易な値下げを行っていないか、販売方法に改善の余地がないか確認したうえで交渉に臨むと新しい発見が見つかるかもしれません。

売上高を増加させるためには、
・客数(利用頻度 × 来店客の絶対数)の増加
・客単価の向上
・商品単価の向上
・買い上げ点数の増加
以上の点を考える必要がありますが、ここに量販店の強みや方針、対する悩みが現れます。全てを増やすことはなかなか難しいので、どのような戦略・戦術を考えているのか確認し助言や提案を行っていきましょう。

シェア分析・数値管理手法

顧客のインストアシェアを向上させるためには、適切なマーケットシェア分析を行うことが必要です。

まず、市場シェア、国内シェア、世界シェアなど必要な市場規模を決めたうえで、
金額や販売数などの計算値の基準を明確にします。
そして、ショッパーへの付加価値や嗜好性の分析を基にした、本当の競合製品は何なのかといった市場の再定義を行いましょう。

例えば、飲料のレッドブルにおいては、缶飲料のカテゴリにおいては数%シェアですが、エナジードリンクのカテゴリにおいては圧倒的な強者です。極端な例ですが、見方を変えると自社商品の強みが発見できます。どのような消費者に自社商品が好まれているかを様々な角度から検証し、適切な市場を再定義してください。そして、その市場規模と今後の展望も含めた数値も用意できると尚いいです。
また、シェアにより量販店に対する交渉力が大きく変わってきます。10−15%のシェアで交渉力を保って商品展開できるレベルです。20%を超えてくると競合他社製品も含めたカテゴリーマネジメントを提案できる可能性が見えてきます。40%を越えると、カテゴリーのスタンダードと呼べる立ち位置ですので、優位性を保って交渉に臨めます。ただ、新たに製品のカテゴリーそのものを食ってしまうような商材やカテゴリーが現れる可能性がありますので、慢心は危険です。

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次に、シェア分析を行ったうえで、顧客のインストアシェアを向上させる手法についてです。
自社商品のマーケットシェアと顧客におけるインストアシェアを確認しましょう。顧客におけるインストアシェアがマーケットシェアよりも低い場合は、ここを上げることが最優先課題です。

そのうえで、インストアシェアが低い要因を探ります。
「似た特性を持つ競合製品が売れている」「棚割りで優位な場所を競合に占拠されている」「競合製品の会社のバックアップが強い(社運をかけた製品展開など)」など、
様々な要因が考えられますが、自社商品をSWOT分析し効果的な提案を継続して行うことで通常は解決できるはずです。
自社商品のインストアシェア拡大のための最も手軽で効果的な手法は、自社製品と同様の特性を持ち売り場での貢献度が劣っている競合製品を、売り場から外すように提案することです。
また、自社商品がマーケットシェアにおいても優位性が保てているのであれば、取り扱わないことによるデメリットは理解してもらいやすいでしょう。

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自社商品の売上高において、それぞれの顧客(量販店)別の売上比率がいびつになっていないか、営業Mgrは注意すべきです。
ある特定の顧客(量販点)に売上が偏ってしまっていると、交渉の際にシビアな価格交渉を強いられるリスクが高まるためです。大きな取引先であっても、会社の売上の15%以上を握られるような取引は慎重に行いましょう。こういった状況に陥ることを避けるためには、
・他社にマネのできない商品を作る(高い技術力、特許で法的なバリアを作る、など)
・他の顧客での売上高を増やす
といった方法でしか対処できません。取引をやめるという方法もありますが、あまり現実的ではないでしょう。

バイヤーにとっては、自らの強みを活かした交渉を進めていくために、カテゴリにおけるメーカーの優先順位付けを行っています。
先ほどの売上比率が特定の企業に偏ることによる、交渉力の低下は量販店においてもあてはまります。
トップシェアのメーカーであってもシェアが15-20%程度で、シェアの高いメーカー3-5社の力が拮抗している状態であれば、量販店のバイヤーは優位性を保って交渉を進めることができます。商品の替えが効きやすい状況にあるためです。ただ、主要メーカーが少なく、トップシェアの企業が半分程度シェアを持っている状況となると、バイヤーは交渉に苦労します。このような状況においては、2番手や3番手のメーカーは自社商品を利用してトップシェアの企業の影響力を低下させましょうという提案は有効的です。

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リテール分析手法(基礎)

小売店・量販店において
◎売上拡大のために、課題となっている点は何か
を把握するための、分析手法の説明をします。

これらを活用することで、
◎小売店・量販店において、課題を客観的に判断できる数値をベースにすることで、適切な解決策を見つけ出すこと
◎小売店・量販店を対象としたメーカーの営業活動において、納得度の高い提案に繋げること
◎小売店・量販店を対象としたメーカーの営業活動において、顧客の市場分析に活かすこと
ができるようになります。

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目的は「売上拡大のために課題となっている点を把握するため」なので、
”売上”を因数分解すると課題としての要素がみえてきます。

・売上高=客数 × 客単価
売上高とは、ある一定期間内の売上金額です。
量販店の地域やブランディングの特性によって、どちらが解決すべき課題として重要か確認したうえで、さらに要素を細分化します。

・客数 =利用客数 × 来店頻度
・客単価=単品単価 × 買上品数
先ほどと同様に特性を理解したうえで分解するとともに、エリアの特性や競合の取り組みをふまえ、「顧客の強みを活かし、ベンチマークしている競合店のお客様を呼べるような商品施策」が求められます。

このような見方もできます。
・売上高=商品回転率 × 平均在庫高
商品回転率は、仕入れがショッパーのニーズにマッチしているか、前出しやPOPなどのプロモーションや鮮度維持に課題がないか確認できます。
平均在庫高は、売れていない商品をストックしてあることを意味し、フォーキャスティングや仕入れ基準、販売体制に課題がないか確認できます。
量販店ではこれらの分析を経て、加工陳列や人員オペレーションを行なっています。

先ほどの公式を基に、次のように言い換えることができます。
・商品回転率=売上高 ÷ 平均在庫高
・平均在庫高=(期首の在庫高 + 期末の在庫高)

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次に、利益とコストの観点から要素を分けていきます。
・売上高=粗利益高 + 売上高原価

・売上高原価 = 期首の棚卸し高(原価) + 当期の商品仕入高(原価) − 期末の棚卸し高(原価)
棚卸し高とは、原材料、仕掛品、商品などの数量と金額を計算した価値です。
期首の棚卸し高とは、資産として繰り越された前期末に売れ残っていた商品の原価です。期末の棚卸し高については、今期末に残っている商品の原価です。

・粗利益率 = 粗利益 ÷ 売上高 × 100
売上高における粗利益高の割合を指します。
「顧客の粗利益率」「担当カテゴリの粗利益率」「自社商品の粗利益率」を知ることで、粗利益高を最大化するための方法を構築することができます。

粗利益率は商品ごとに異なります。
商品回転率が売りで粗利益率が低いものもあれば、粗利益率は高いものの売れる数が少ない商品もあります。そこで、どの組み合わせが粗利益高を最大化できるのかといった粗利ミックスを考慮します。カテゴリーマネジメントの際には、売れ筋の売価を抑えた商品は割合は少なくしつつも残し、それに関連付けられるような嗜好品や売価が多少高くても売れる粗利益率の高い商品を組み込むといいでしょう。

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利益と物量の双方の視点から、売上を構成する要素を説明しました。
次に、これらをかけ合わせて数値をみることで、商材の影響力を測ることができます。

・交差(主義)比率 = 商品回転率 × 粗利益率
この数値が高ければ、商材の売上に対する影響度が大きいといえ、同時に投資効率が高いといえます。これらをある一定の基準で設定している量販店もあるかと思います。この数値は、商品が売れ残っている際や、逆に品薄となっている際に、粗利益率を調整する際の指標として用いられます。
自社と競合の数字を確認するとともに、期首と期末での在庫高の調整額に気をつけましょう。ここの乖離が影響して、商品回転率に影響が出るケースがあるようです。

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次に、売上から粗利、それに伴うヒトに関する費用割合についてです。

・労働分配率 = 総人件費 ÷ 粗利益高
粗利益高のうちの人件費の割合です。
リテール企業においては40%以下が望ましいようです。
この割合が低ければ低いほど、企業体力の強い会社といえます。
同時に競争力の高い企業ですので、交渉力も高いようです。

・人時生産性 = 粗利益高 ÷ 総労働時間
・人時売上高 = 売上高 ÷ 総労働時間
従業員1人あたりの労働で、どれだけ粗利益高・売上高を高めることができたかという指標です。
リテール企業においては、全社で人時生産性5,000円・人時売上高18,000円が目安といわれています。この数値は高ければ高いほど強い店舗といえます。
全社と付け加えましたが、会社全体の本部スタッフも含めて計算する必要があります。

・従業員1人あたりの売上高 = 売上高 ÷ 従業員数(8時間勤務として)
販売力を示す指標です。市場での評価が高く、採用していない商材を取り入れることで向上させることが可能です。

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次に、売上と店舗コストの相関値です。

・坪効率 = 売上高 ÷ 売り場面積(坪)
この数値が高まれば営業利益率が高まります。この数値が増加傾向にあれば、増床を検討すべきですが、店舗の家賃と費用対効果を検討する必要があります。競争が激しい地域では、この数値は低下します。そういったケースにおいては、人件費を削るために店舗内のオペレーション効率を高められる商材を求めるケースがあります。

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また、POSデータでの計算で取得しているPI値についてです。

・PI値 = 特定期間の単品販売数量 ÷ 特定期間のレジ通過客数
PI値とは購買発生率(Purchase Incidence)の略称です。
通常、こちらの値が高い商品は、販売数量の増加に対する貢献度が高い商品といえます。ただ、POSデータ(PI値)からは現状の販売実績はみえますが、陳列状況まではわからず、本来在庫があれば売れたであろうもののデータは見えないことも想定すべきです。そのため、PI値と商品だけを関連付けるのではなく、POPや前出しによるプロモーションや、トレンドや販売手法など多角的な視点を持った上でPI値を分析しましょう。

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以上が基本的な売上高に紐づく要素ですが、改善に取り組む際はあくまで、収益向上を目的とした施策を打ち出すことです。
顧客の課題解決から先の、顧客の成功を目的とした提案においては、より深い情報収集→分析が必要となります。

量販営業、課題解決3つのステップ  提案先ポジション別ニーズの特徴

◎提案する相手のポジションや個性から、課題やニーズに仮説を立てる
→(参考)コミュニケーション手法 OSCD
※提案相手のポジションにおいてニーズの乖離が存在します。こちらのページ下部で説明します。

◎抽出した課題やニーズを顧客と共通認識として同意を得る。
→(参考)課題抽出方法

◎課題解決と収益向上の手段として、自社商品の競合と比較した優位性に納得してもらう
→(参考)POSデータから先の、現場視点を交えたオーダーメイドの提案

☆上記3ステップからの結果と、そのうえでのフォロー、更なる提案といった一連のサイクルを繰り返すことで、インストアシェアの向上に繋げる。

以上の流れのなかから、
・提案相手のポジションにおけるニーズの乖離、特徴
について詳細に説明します。

 

【提案相手のポジションにおけるニーズの乖離、特徴】
まず、量販店は店舗全体の売上高を伸ばすことを目的としています。交渉相手のポジションが、経営層に近ければ近いほどその色は強くなります。
そのうえで、量販店は自社のカテゴリ(部門)をどのように強くしていくかという戦略を常に考えていますが、提案する相手によって聞きたいポイントが異なります。

・本部バイヤー
会社から大きな数値責任を与えられていることもあり、価格や条件面の話が中心となるケースが多いようです。バイヤーの数値達成への貢献度や協力姿勢の強いメーカーに好意的となりますが、メーカーとしても価格交渉で有利な条件を引き出すことを責任として行っていかなければなりません。
そこで、「担当カテゴリが持つ数値責任のなかで、重要な計数の項目は何か」を重点的に把握するようにしてください。
粗利や回転率、欠品率改善など、提案するタイミングによっても変化しますので、定期的なフォローが必要です。粗利益率など取引条件そのものの話にはなるべく持っていかず、粗利益高や坪効率の改善など、収益の改善を目的とした話の展開を行なっていきましょう。

・商品部のトップ(バイヤーの上司)
バイヤーは担当カテゴリが決まっているため、自らのカテゴリの売上伸張に固執し全体観を失うケースがありますが、そういったことにならないように統制を司っているのが商品部長です。売場全体の魅力を高め、売上を伸ばすことを目的とした戦略を考えているため、より大きな視点での課題抽出を行ってください。部門をまたいだ関連販売など、販売機会の拡大に大きな可能性を持つ対象者です。

・店長
個店や店長が管轄するエリアにおける、売上高、店舗利益、客数などで評価されています。量販店全体のカテゴリ(部門)を伸ばすといった意識は強くないケースが多いです。つまり、カテゴリ全体を伸張するための提案よりも、店長が管轄する責任範疇において売上高、店舗利益、客数などに対する悩みや課題解決に直結する提案を行ってください。大手量販店の旗艦店の店長などは、エリートコースですので良好な関係を築いておくべきです。

・売場Mgr(店長の部下)
チャンスロスや業務効率など、オペレーションを重視した評価を受けていることから、収益や成果に見合わない仕事は極力避けたいと考えています。季節変動の大きい定番商品へのフォーキャスティングの精度向上や、欠品の改善など、現場が動きやすいオペレーションの提案は彼らにとって興味度の高い話のようです。

・経営者
売上金額と、自社の競合と比較した優位性(ブランド)に、数値的な貢献度がどの程度あるのかといったことに興味があります。ここに対する実績の説明の準備と、各担当者から得られた情報をもとにして、課題や悩みを想定し対話を行ってください。短期的な利益は期待せず、信用を得ることを目的にコミュニケーションをとるように心がけ、関係を発展させてください。

量販営業における、顧客の課題抽出方法

成果を出すことのできる量販営業担当者は、常に「自社商品を手法にすることによって、担当量販店の課題解決が可能なのか」を念頭に行動しています。
課題を抽出する目的は、自社商品を手法とした提案の納得度を高めることで、自社商品のインストアシェアの向上に繋げるためです。

◎まず初めにすべきこと
・顧客情報の基本要素を抑える
・売り場を巡回し、「商品情報の基本要素」を抑える
・売り場を巡回し、「店舗オペレーションの基本要素」を抑える

本部商談をメインで行う量販営業担当者にとっても、売り場を定期的に巡回し情報を得ることが大切です。
上記3つの抑えるべきポイントの細かい要素を記載します。

【顧客情報の基本要素】
・売上高の現状(増減のトレンド、今後の見通し)
・粗利益率
・商品回転率
・在庫金額、内容
・陳列の優先順位のつけ方(売れ筋の見極め方)
・地域情報、競合店の把握(そのうえでの売り場作りの課題がないか)
・販促、接客体制の状態
・自社商品のインストアシェア、自社における前任者の成果や取り組みの把握
・経営層の担当カテゴリにおける悩みや課題の有無
リテール分析手法
シェア分析・数値管理手法

自社の商品特性と照らし合わせ、各項目における自社と顧客の相性や着手点を洗い出します。

【商品情報の基本要素】
・メイン商品、新商品、強化商品の打ち出し方
・主力商品と関連商品のクロスMDの取り組み方
・販促のレベル(POP内容やイベントの分かり易さや目を引く面白さ)
・担当者のカテゴリ全体の商品知識のレベル
・品切れや欠品、死に筋商品への対応の細かさ
・売数に適した棚割りや陳列量になっているか
・汚れやホコリなどの衛生面

【店舗オペレーション情報の基本要素】
・販売員の目標把握度合い(業務内容から先の、予算や仕事の意味の理解度)
・マニュアル内容の充実度
・前進立体陳列、フェイスアップの徹底度
・備品やゴミの管理
・レジの対応力
・人員配置(臨機応変さや費用対効果などが適正か、工夫がなされているか)