リテール分析手法(基礎)


小売店・量販店において
◎売上拡大のために、課題となっている点は何か
を把握するための、分析手法の説明をします。

これらを活用することで、
◎小売店・量販店において、課題を客観的に判断できる数値をベースにすることで、適切な解決策を見つけ出すこと
◎小売店・量販店を対象としたメーカーの営業活動において、納得度の高い提案に繋げること
◎小売店・量販店を対象としたメーカーの営業活動において、顧客の市場分析に活かすこと
ができるようになります。

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目的は「売上拡大のために課題となっている点を把握するため」なので、
”売上”を因数分解すると課題としての要素がみえてきます。

・売上高=客数 × 客単価
売上高とは、ある一定期間内の売上金額です。
量販店の地域やブランディングの特性によって、どちらが解決すべき課題として重要か確認したうえで、さらに要素を細分化します。

・客数 =利用客数 × 来店頻度
・客単価=単品単価 × 買上品数
先ほどと同様に特性を理解したうえで分解するとともに、エリアの特性や競合の取り組みをふまえ、「顧客の強みを活かし、ベンチマークしている競合店のお客様を呼べるような商品施策」が求められます。

このような見方もできます。
・売上高=商品回転率 × 平均在庫高
商品回転率は、仕入れがショッパーのニーズにマッチしているか、前出しやPOPなどのプロモーションや鮮度維持に課題がないか確認できます。
平均在庫高は、売れていない商品をストックしてあることを意味し、フォーキャスティングや仕入れ基準、販売体制に課題がないか確認できます。
量販店ではこれらの分析を経て、加工陳列や人員オペレーションを行なっています。

先ほどの公式を基に、次のように言い換えることができます。
・商品回転率=売上高 ÷ 平均在庫高
・平均在庫高=(期首の在庫高 + 期末の在庫高)

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次に、利益とコストの観点から要素を分けていきます。
・売上高=粗利益高 + 売上高原価

・売上高原価 = 期首の棚卸し高(原価) + 当期の商品仕入高(原価) − 期末の棚卸し高(原価)
棚卸し高とは、原材料、仕掛品、商品などの数量と金額を計算した価値です。
期首の棚卸し高とは、資産として繰り越された前期末に売れ残っていた商品の原価です。期末の棚卸し高については、今期末に残っている商品の原価です。

・粗利益率 = 粗利益 ÷ 売上高 × 100
売上高における粗利益高の割合を指します。
「顧客の粗利益率」「担当カテゴリの粗利益率」「自社商品の粗利益率」を知ることで、粗利益高を最大化するための方法を構築することができます。

粗利益率は商品ごとに異なります。
商品回転率が売りで粗利益率が低いものもあれば、粗利益率は高いものの売れる数が少ない商品もあります。そこで、どの組み合わせが粗利益高を最大化できるのかといった粗利ミックスを考慮します。カテゴリーマネジメントの際には、売れ筋の売価を抑えた商品は割合は少なくしつつも残し、それに関連付けられるような嗜好品や売価が多少高くても売れる粗利益率の高い商品を組み込むといいでしょう。

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利益と物量の双方の視点から、売上を構成する要素を説明しました。
次に、これらをかけ合わせて数値をみることで、商材の影響力を測ることができます。

・交差(主義)比率 = 商品回転率 × 粗利益率
この数値が高ければ、商材の売上に対する影響度が大きいといえ、同時に投資効率が高いといえます。これらをある一定の基準で設定している量販店もあるかと思います。この数値は、商品が売れ残っている際や、逆に品薄となっている際に、粗利益率を調整する際の指標として用いられます。
自社と競合の数字を確認するとともに、期首と期末での在庫高の調整額に気をつけましょう。ここの乖離が影響して、商品回転率に影響が出るケースがあるようです。

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次に、売上から粗利、それに伴うヒトに関する費用割合についてです。

・労働分配率 = 総人件費 ÷ 粗利益高
粗利益高のうちの人件費の割合です。
リテール企業においては40%以下が望ましいようです。
この割合が低ければ低いほど、企業体力の強い会社といえます。
同時に競争力の高い企業ですので、交渉力も高いようです。

・人時生産性 = 粗利益高 ÷ 総労働時間
・人時売上高 = 売上高 ÷ 総労働時間
従業員1人あたりの労働で、どれだけ粗利益高・売上高を高めることができたかという指標です。
リテール企業においては、全社で人時生産性5,000円・人時売上高18,000円が目安といわれています。この数値は高ければ高いほど強い店舗といえます。
全社と付け加えましたが、会社全体の本部スタッフも含めて計算する必要があります。

・従業員1人あたりの売上高 = 売上高 ÷ 従業員数(8時間勤務として)
販売力を示す指標です。市場での評価が高く、採用していない商材を取り入れることで向上させることが可能です。

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次に、売上と店舗コストの相関値です。

・坪効率 = 売上高 ÷ 売り場面積(坪)
この数値が高まれば営業利益率が高まります。この数値が増加傾向にあれば、増床を検討すべきですが、店舗の家賃と費用対効果を検討する必要があります。競争が激しい地域では、この数値は低下します。そういったケースにおいては、人件費を削るために店舗内のオペレーション効率を高められる商材を求めるケースがあります。

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また、POSデータでの計算で取得しているPI値についてです。

・PI値 = 特定期間の単品販売数量 ÷ 特定期間のレジ通過客数
PI値とは購買発生率(Purchase Incidence)の略称です。
通常、こちらの値が高い商品は、販売数量の増加に対する貢献度が高い商品といえます。ただ、POSデータ(PI値)からは現状の販売実績はみえますが、陳列状況まではわからず、本来在庫があれば売れたであろうもののデータは見えないことも想定すべきです。そのため、PI値と商品だけを関連付けるのではなく、POPや前出しによるプロモーションや、トレンドや販売手法など多角的な視点を持った上でPI値を分析しましょう。

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以上が基本的な売上高に紐づく要素ですが、改善に取り組む際はあくまで、収益向上を目的とした施策を打ち出すことです。
顧客の課題解決から先の、顧客の成功を目的とした提案においては、より深い情報収集→分析が必要となります。